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F4BLT

ご依頼品のF4BLTの作業の様子です。

元の状態です。アルミの腐食状態、汚れ方や錆からかなり長く放置されていたものを推測されます。転倒傷やラベルの剥がれ具合からすると現役時はかなり使い込まれたものかと。



分解していきますが、一部のボルトは完全に固着していて容易には外れませんでした。今後のことも考えてこの機会にネジは全て外して入れ替えます。

そもそも、このボルト自体が物理的に非常に危ういのです。
・柔らかいアルミ製
・M6サイズながら6角レンチ穴は4mmと小さい
・さらにボタンヘッドのために6角穴が浅いのです。
柔らかい上に使用工具が細く掛かりも浅いため、固着したネジは99%くらいの確率で穴をナメてしまいます。ナメてしまったものは切れ込みを入れてインパクトで緩めました。当時のAMPのリフレッシュキットにはこのネジも同梱されていますので使い捨て前提のネジと推測されます。

ダンパーユニットを取り外しました。今回は本体側を研磨しますので、研磨しやすいようロアアームのレッグ側のピンを抜いてロアアームをフリーの状態にしました。
この状態で本体のアームはガタもなくスムーズに動きます(問題なし!)。画像内のステンレス皿の下側の黒ずんだダンパーはダンパーオイルがダダ漏れして汚れが衣のようについた状態です。

できればアーム自体を外した方が磨きやすいので、もしボディのシャフトが容易に抜けるようなら抜いてみようと試してみました(左側のアルミはパイプ状になっていてシャフトを押し出す形になります)。が、やはりビクともしません。ここから目一杯、力をかければ抜けると思いますが、元の通りに圧入するのが危うい作業になりますので諦めます。

ダンパーを分解しました。どちらも固着状態で分解は緊張しました。画像左側はわずかにダンパーオイルが残っていましたので内部は健康な状態です。一方、右側はダンパーオイルは完全に抜けている状態でした。ダンパーオイルが抜けたこの状態でかなり使ってしまったようで、内部はかなり厳しい状態です(後述)。特に赤丸で囲んだ内部のサブスプリングがコテコテに錆びていてダンパーボディのアルミの腐食と共に内壁と一体化している状態でした。赤矢印の部品が少し形状が異なりネジ山が少ないです(ここは押す方向にしか力が掛からないのでこれでよいのでしょう)。AMP製品はロットで部品の微妙な違いは多々あります。スプリングの調整がリング式だったりシャフトがステンレスではなくアルミシャフトにハードアルマイトだったり、リンクシャフトがネジ留めではなくEリング留めだったりとか....

ダンパーオイルが抜けていた側のダンパーボディです。ピストンが動く側の内壁ですが、ダンパーオイルが抜けた状態で使っていたため、微細な砂埃などで内壁がかなり荒れて傷だらけです。同様にシャフトも少しダメージがありますので(後述)、ダンパーオイルが漏れやすい可能性があります。

ダンパーパーツの研磨です。オイルシールが嵌る溝は硬化して固着したオイルシールのゴムがアルミの腐食と一体化してアルミ側に跡として残っている状態でしたので研磨して完全にツルツルにします。

ダンピングを発生させるピストンのオイルホールに0.2mmの針を通して貫通を確認します。ダンパーオイルが残っていた側はOK。画像はダンパーオイルが抜けていた側のピストン&シャフトですが、穴は完全に塞がっていたために少し難儀しました。シャフトを見ると擦過傷も多いです。この擦過傷のためこちら側のダンパーはオイルが滲みやすいかもしれません。

古いダンパー内のオイルシール類です。黄丸で囲んだものはオイルが残っていた側のシャフトのオイルシール、赤丸で囲んだものがオイルが抜けていた側のシャフトのオイルシールです。後者のシールがかなり痩せてダメージがあることからオイルがない状態でかなり使われていたかと。

新品のオイルシールです。

今回、片側のダンパーユニットの状態を考慮すると、固めのダンパーオイルは作動時の圧でオイルリークしやすいので若干柔らかめとしました。フロントフォークオイル#5と#7の1:1のブレンドです(オイルはBal-Rayです)。

組み立てていきます。画像はダンパー後端側。シャフトが移動する部分はオイルシールを抑えるサブスリングになっています。

仕上げに両エンドのアイレットに圧入されているブッシュリング(ドライベアリング)をエキストラクターで抜いて交換します。

というわけでダンパーユニットの完成です。スプリングはかなり錆が出ており、そのままでは見た目も残念で錆も進行しますので、錆を落として薄っすらと塗装しています(スプリング用の柔軟性のある塗料ではありませんので割れ剥がれないよう、薄っすらと吹き付けています)。

研磨作業です。
手持ちの色々な研磨剤や溶剤、布/ペーパータオル/綿棒/電動工具を駆使して磨いていきますが、腐食が思いのほか進んでおり作業はかなり難航しました。やはり腐食が深いところは画像のように跡が消えないです。粒模様の部分、画像では凸凹のように見えますが触るとツルッとしています。当方でできる研磨はここまでです。ここから粒模様の腐食跡を消すには一皮剥く勢いで研磨する必要があり、表面の仕上げが変わってしまう可能性もあります(アルミ削り出し特有の表面の切削跡が失われるかもしれません)。

昨晩の状態です。日曜中に終了予定でしたが、固着や腐食の状態からやや時間がかかってしまいました。概ね研磨も終わり、残作業は組み立てと例のVブレーキとなります。


ここから追加分

固着して緩まないVブレーキの対処です。
仕事で外出したついでにホムセンでインチ規格の高ナットを買いました。最初はこれにガッツリ捻じ込んで緩めるつもりでしたが、ハタと気が付いてグラインダーで割りを入れました。

このような感じで台座のネジ部分を痛めることなく万力で強力にクランプできます。

当初、かなり苦労すると思われましたが、あっさり緩みました!

フォークの組み立てです。
ちょうど、自分用のAMPフォークのナイロンワッシャーも不足気味でしたので、ナイロンの丸棒からワッシャーを多めに作ります。

ナイロンワッシャーが必要な箇所は少しシャフトが出っ張ってます。ナイロンワッシャーの厚みは出っ張りよりも僅かに薄い必要があります。基本、ワッシャーの厚み0.8mmなのですが、この出っ張りが製造時の圧入が手作業なのか割とまちまちです...

ワッシャーを嵌め、ネジを留めてアームを動かした際、アームの動きが重くなる=ネジでワッシャーを押し付けてる=NGとなります。

組み上げても「アームの動きが重くならない」且つ「隙間なし」という状態になるようペーパーでワッシャーの厚みを微調整しながら組みます。

ダンパーの両端のアイレットにはブッシュリングが圧入されています(MTBフレームのリアサスにもよく使われています)。これは内壁にテフロンがコーティングされたリングで正式名は「ドライベアリング」「オイルレスブッシュ」などです。名前の通り、このリングが嵌る箇所にはオイルやグリスは使ってはいけないです。理由はオイルやグリスが砂埃を集め、リング内壁のテフロンにダメージを与えてしまうからです。
F4BLTのダンパーユニットは下端(ダンパー側)はミリサイズで下記のものを使っています:
https://www.monotaro.com/p/0044/4595/
上端(スプリング側)はインチサイズのリングで日本国内では見つからず海外通販(getyourbearings.co.uk)でまとめ買いしたものです。

こういう箇所には浸透性のあるルブを浸透させ細いOリングで蓋をする仕組みになっています。Oリングのゴムを侵さず浸透性から粘性を発揮する金属同士に適合するグリスといえば、オートバイ用のシールチェーン対応のチェーンルブです。


アームやダンパーを止めている例のアルミのネジは、ネジの接合力で部品を留めるためのものではなく、パーツの抜け防止のためのもので強く締め付ける必要はないのですが、かといって緩んで落ちてもいけないのでネジロックを塗布します(実際にAMPフォークをバラすとネジには何らかのネジロックが塗られて粉として出てきます)。メンテのときは再び緩められるよう右の弱目のネジロックを使っています(ゴム系のボンドっぽいものです)。左のネジロックは永久締結用でこれをアルミの柔なネジに塗ると緩める際にネジを破壊する羽目になります。


最後にホイールをはめて動作確認しました。




というわけで完成です。
例のアルミのネジは全部で10本ですが、半分ほど緩める際の固着で六角穴が広がったりで再利用は不可能なネジが予想外に多く、予備在庫では足りなかったのでワタクシのF4フォークから採取したネジも使っています(ワタクシのは何か代替のネジを探しますので大丈夫)。画像ではキレイに見えますが、やはりクスミ感や腐食痕はあります、それらを消すにはここからさらに時間と労力をどれだけかけれるかになるかと思います。